相続の豆知識(配偶者居住権・前編)

Q.私には妻と子供がいます。子供は30年前に就職し、家を出ています。それ以降、私は妻と二人で自宅に暮らしています。
私が亡くなった後、妻は住み慣れた自宅に住み続けることはできますか。また、私が亡くなった後、妻が自宅に住み続けるには何をする必要がありますか。

配偶者居住権の創設

2018年に成立した改正相続法では、「配偶者居住権」という新しい権利が創設されました。

配偶者居住権とは、被相続人が亡くなった時、被相続人の配偶者が被相続人の所有する建物に居住していたときは、そのまま無償で、終生住み続けることができる権利です(民法第1028条)。

Point

高齢化により、被相続人が死亡し、相続が発生した時には、被相続人の配偶者は高齢になっていて、子はすでに経済的に独立していることが多くなりました。

このような現在の家族事情に法律の規定を対応させ、残された配偶者の居住権を長期に保障することで、配偶者の生活をより安定させる目的で、配偶者居住権という制度が創設されています。

配偶者居住権がないと

2018年に相続法が改正される前は、配偶者居住権の制度がありませんでした。

そのため、自宅を所有する被相続人が死亡した場合に、被相続人の配偶者が住み慣れた自宅に住み続けるためには、その自宅を相続するか、その自宅を相続した者(例えば子)との間で賃貸借や使用貸借などの契約を締結する必要がありました。

事案①のケースで具体的に説明します。

事案①

Aさんは、時価3000万円の自宅と、2000万円の預貯金を残して亡くなりました。Aさんには妻のBさんと、子のCさんがいます。

Aさんが遺言を作成せずに死亡し、妻Bさんと子Cさんが法定相続分どおりに相続するとします。この場合、妻Bさんと子Cさんは、Aさんの遺産を2分の1ずつ相続することになります。

妻Bさんが住み慣れた自宅に暮らし続けたいと思い、自宅の相続を希望すると、自宅の価額3000万円は、Aさんの遺産総額5000万円(自宅の価格3000万円+預貯金2000万円)の2分の1である2500万円を超えていますので、妻Bさんは預貯金は1円も相続できないことになります。それだけでなく、妻Bさんは、子Cさんに対して、自宅の所有権を承継することの代償金として、500万円を支払わなければなりませんでした。

これでは、もし、妻Bさんが被相続人の財産以外にまとまった財産を持っていなかった場合、自宅を取得することができません。また、妻Bさんが何とか500万円を工面して、自宅を取得したとしても、預貯金は全額、子Cさんが取得していますので、妻Bさんとしては今後の生活費が心配になるでしょう。

Point

事案①のように、被相続人の配偶者が、自宅を相続した場合、相続財産の中でも、不動産(自宅)は高額であることが多いため、配偶者がそれ以外の遺産(預貯金等)を取得できず、その後の生活に支障をきたしてしまう可能性があります。

また、被相続人の配偶者が、自宅の所有権を取得するのではなく、自宅を相続した者(例えば子)との間で賃貸借・使用貸借などの契約を締結しようとしても、必ずしも賃貸借契約等を締結できるわけではありません。

配偶者居住権があると

事案①のケースにおいて、配偶者居住権が認められたとします。

自宅の価格3000万円を参考に、配偶者居住権の価格を1000万円、配偶者居住権の負担付き所有権を2000万円だとすると、子Cは自宅の所有権と預金500万円を相続し、他方、妻Bさんは、配偶者居住権に加えて預貯金を1500万円相続することができて、住む場所も、老後の生活費も確保できることになります。

Point

配偶者居住権が創設されたことで、被相続人の配偶者には、それまで住んでいた自宅を相続せずに、配偶者居住権を設定して住まいを確保しながら、今後の生活資金として必要な、現金や預金をより多く相続するという選択肢が与えられました。

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(記事監修・弁護士伊藤康典)

記事監修

弁護士 伊藤康典

横浜みなとみらい法律事務所 代表弁護士(神奈川県弁護士会所属、登録番号 34465)
東京大学法学部卒業。平成 16 年度司法試験合格。都内法律事務所勤務を経て、2014 年、横浜みなとみらい法律事務所を設立し、所長。

事務所開設以来、遺産分割、遺留分侵害額請求をはじめとする、相続事件に注力してきました。法律的な争いがあるケースばかりでなく、遺産が多数であったり、相続人間に感情のもつれがあったりすることで、相続が進んでいないケースも数多く、取扱いがあります。丁寧に事案を解きほぐし、円滑に相続手続が進むよう心がけております。 税務の面について検討が必要な場合には、信頼できる税理士と連携しつつ、対応しています。