相続の豆知識(負担付きの「相続させる」旨の遺言)
Q.私が妻より先に死亡した場合、残った認知症の妻が心配です。
長男に遺産を多めに相続させ、妻の面倒をみさせたいと思っています。
相続財産は、自宅不動産と預貯金です。
どのような遺言書を作ったら、よいですか。
負担を付けた遺言
遺言書を書くことにより、作成した遺言書の内容に従って相続がなされます。
遺言書の内容は、遺言者本人が自由に決めることができ、単純に財産を指定の者に承継させることもできますし、特定の者に何らかの負担を付して、財産を承継させることもできます。
配偶者の面倒をみさせるもの
ご質問の場合のように、遺言者の死後、配偶者(妻)の老後の生活が困窮しないように、子(長男)に世話をしてもらい、その代わり、子(長男)に多めに遺産(自宅など)を残したい場合には、以下のような遺言書を書くことになります。
(文例)
第○条 遺言者は、遺言者の長男A(生年月日)に、遺言者の二男B(生年月日)に相続させる第○条記載の財産を除き、遺言者の有する一切の財産を相続させる。2 長男Aは、前項の相続の負担として、遺言者の妻C(生年月日)が生存する間、同人と同居し、世話をし、扶養しなければならない。
長男に対して、自宅不動産を残すだけでは、長男が妻の世話をしてくれる保障はありませんが、このように、相続に負担をつけることで、妻の生活の保障を図ることができます。
負担が履行されない場合
負担付の遺言は、遺言をするときの家族の生活状況、当事者の希望なども踏まえて、実現できるか判断して定めるとよいでしょう。
負担の内容は、受益相続人ができることであれば、経済的な給付に限られません。但し、犯罪行為など公序良俗に反する行為をすることや、婚姻・離婚など身分上の行為をすることについては、負担として定めても無効となります。
負担付の遺言がされた場合、他の相続人や遺言執行者は、受益相続人に対して、履行を請求することができます。
そして、受益相続人が負担を履行しない場合には、他の相続人は相当な期間を定めてその履行の催告をすることができ、その期間内に履行がないときは、遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができるとするのが、多数説です。
その他のケース
住宅ローンの支払い義務を負担させる
土地や自宅などの不動産を購入した際のローンが残っていて、その不動産を特定の者に相続させたい場合に、不動産を相続させる代わりに、残ったローンを負担させる旨の遺言を残すこともできます。
代償金の支払い義務を負担させる
自宅などの不動産を特定の者に相続させたい場合、その者に、その不動産を相続させる代わりに、他の相続人に対して、代償金の支払い義務を負担させる旨の遺言を残すこともできます。
相続に関する問題は、弁護士にご相談ください
高齢のため一人で生活することが難しい相続人がいるときに、遺言者は、自分が死亡した後の、その相続人の生活を心配して、負担付きの遺言を考えることがあります。そうした遺言をすることで、遺言者は自分の死後における心配を軽減させられるでしょう。
その一方で、負担付きの遺言は、財産をもらう側にとっては、重大な負担になってしまう場合もあり得ます。
さらに、負担を遺言書に盛り込む場合は、それが原因で相続が揉めてしまうこともありえますので、細心の注意を払わなければいけません。
- 負担をつけた遺言書を作成したい。
- 負担がついた遺言書を見つけたが、相続人間で、遺産分割協議をしたい。
- 遺言書どおり、兄妹が負担を履行してくれない。
相続に関する問題は、弁護士にご相談ください。
(記事監修・弁護士伊藤康典)