相続の豆知識(遺言の方法)

Q.これから、遺言書を書こうと思っています。
遺言では、どんなことが決められるのでしょうか。
遺言には、どんな種類がありますか。

遺言書でできること

遺言書の作成には、どのようなことに気をつければよいのだろう、と気になっていませんか。遺言書は、人が、自身の財産をどうするか等を決定する最終的な意思を残す書面です。
遺言書では、原則として、財産を誰にどのように残すかについて、自由に決められますが、不備があれば、遺言書自体が無効になってしまうこともあります。
遺言書について、正しく知ることで、自分の没後の親族トラブルを回避することもできます。
あなたの考えたとおりに、ご家族に財産の配分ができるよう、適切な遺言書を作成しましょう。

遺言書では、例えば、次のようなことが、決められます。

相続する人を決められる

1つ目は、相続する人の指定です。
基本的に、遺産を相続するのは、法定相続人である親族になります。しかし、遺言書で指定することで、遺贈という形で、親族以外の人に財産を譲ったり、特定の団体に寄付したりすることが可能です。

相続人を廃除できる

遺言書は、遺産の相続方法を指定するものですが、遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者)を廃除することもできます。
ただし、遺留分を奪うには、被相続人に対する虐待や、重大な侮辱があったことなどが必要になります。

相続分を指定できる

民法では、遺産相続の割合が続柄などによって、定められていますが、遺言書によって、相続の割合を、自身の指定する配分に変更することが可能です。

遺言執行者を指定できる

遺言執行者を指定することで、遺言書の内容の実現を確実にすることもできます。相続人である親族を遺言執行者にすることもできますが、トラブルを避けるため、また、煩雑な手続きが必要となる場合などに、弁護士や司法書士を指定するケースもあります。

保険金の受取人の変更ができる

生命保険では、保険契約の時に、保険金の受取人を指定しますが、遺言書によって、保険金の受取人を変更することが可能です。

隠し子を認知できる

隠し子は、法律上の親子関係がありませんので、そのままでは、遺産を相続する権利がありません。認知は、遺言書でもすることができ、認知することによって、遺産を相続することができるようになります。

遺言の方式と種類

遺言をするには、法律(民法)で定められた方式に従ってなされなければなりません(民法第960条)。民法は、遺言書の作成方法について、厳格なルールを定めていて、方式を守らず作成した遺言書は、無効になります。
一般的に行われている遺言の方式(普通方式)には、自筆証書遺言(民法第968条)、公正証書遺言(民法第969条)、秘密証書遺言(民法第970条)があります。
死が間近に迫っている、あるいは、交通が隔絶されているなど、普通方式の遺言ができない特殊な状況下では、特別方式という方法により、遺言がされることもあります。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印して作成する遺言です。
手書きで作成する必要がありますが、いつでもどこでも、費用をかけずに自分で作成できる、一番簡易な方式です。用意するのは、筆記用具と紙と印鑑だけですので、気軽に遺言書を作成できる点が自筆証書遺言の長所です。
他方で、自分だけで遺言書を作成した場合、自筆証書遺言の要件を満たしていなかったり、記載内容が不明確だったりなどの理由で、遺言が無効になってしまう可能性があります。さらに、紛失してしまったり、そもそも発見されなかったり、保管場所によっては遺言の内容が知られてしまったり、あるいは、第三者による偽造・変造のおそれもあります。
また、家庭裁判所での検認手続きが必要になりますので、相続人の側にとっては、手軽な手続きではありません。
なお、このような不都合があったことから、自筆証書遺言を法務局で保管することができる制度が2020年7月10日からはじまっています。この制度では、法務局で遺言書を保管してくれるので、遺言書の紛失・亡失のおそれがなく、相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざん等を防ぐことができます。また、遺言書の保管申請時には、民法の定める自筆証書遺言の形式に適合するかについて、遺言書保管官の外形的なチェックも受けることができます。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、遺言者が遺言内容を公証人に口授して、公証人が書面の作成をし、作成した遺言書を公証役場で保管してもらう遺言です。
公証人役場において作成されるため、遺言書の方式に欠けるところがなく、また、公証人役場で保管されることから、第三者による遺言書の偽造・変造を防止することができる点が、公正証書遺言の長所です。
他方で、作成費用がかかるうえに、作成までに公証人との打合せが必要となることから、手続きの手軽さには欠ける一面があります。

秘密証書遺言

秘密証書遺言を作成するには、遺言者が証書に署名し、押印したうえで、封印し、公証人役場に持ち込んで、公証人1人および証人2人以上の立会いのもと、封書を提出します。
自筆証書遺言と同様、遺言内容について専門家のチェックを受けるわけではないので、不備があれば無効となる危険性があります。自筆証書遺言と異なり、費用が発生し、あまり利用されていないようです。

Point

遺言書は、通常、自筆証書遺言か、公正証書遺言により作成されます。自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらで作成するかは、遺言を作成する状況によりけりです。
例えば、遺言内容を確実に実現したいという場合であれば、公正証書遺言のほうが優れています。

相続に関する問題は、弁護士にご相談ください

遺言書を作成する場合は、あらかじめ弁護士に相談することをおすすめします。

  • 遺言書を作成したいが、どのような方法で作成したらよいか相談したい。
  • 遺言書を作成したいが、書き方がわからない。
  • せっかく書いた遺言書が無効にならないか、確認したい。
  • 遺言書を作成したいが、どのように保管したらよいのかわからない。
  • 遺言書を作成したいが、遺留分の侵害がないか確認してほしい。

相続に関する問題は、弁護士にご相談ください。

(記事監修・弁護士伊藤康典)

記事監修

弁護士 伊藤康典

横浜みなとみらい法律事務所代表弁護士。
東京大学法学部卒業。平成16年度司法試験合格。都内法律事務所勤務を経て、2014年、横浜みなとみらい法律事務所を設立し、所長(2020年現在、弁護士6名)。

個人事業主、中小企業、上場企業の顧問業務のほか、交通事故、相続(遺言、遺産分割、遺留分減殺)や成年後見、建物明渡し等、個人の方からのご依頼にも注力しています。依頼者に待ったをかけるのではなく、依頼者の背中を押す弁護士でありたいと思っています。