相続の豆知識(介護は報われるか)

Q.私は2人兄弟の兄です。
昨年、母が亡くなりました。父も5年前に亡くなっています。
遺言は遺されていませんでした。
弟は30年も疎遠になっており、私の妻は、10年間、母の介護をしてきたので、遺産分割では、この点を考慮して欲しいと考えています。
しかし、弟は、きっちり2分の1ずつで遺産を分けるのがルールだと譲りません。

寄与分とは

寄与分とは、相続人のうち、被相続人の財産の維持、増加に関して、特別の寄与をした者がいた場合に、その者の相続分を増やすことで、遺産分割における相続人間の実質的公平を図ろうとする制度です(民法第904条の2第1項)。
例えば、被相続人に何人かの子がいて、そのうちの1人の子だけが被相続人の家業を手伝い、その結果、被相続人の財産が増えたとします。それにもかかわらず、被相続人が遺した遺産を均等に相続することは、公平ではありません。
そこで、相続人間の公平を保つために、家業を手伝った相続人は、寄与分の制度により、他の相続人より相続財産を多く相続することができることになっています。

では、生前に被相続人の介護を主に担当した相続人に、寄与分の制度により、他の相続人より相続財産を多く相続させることは妥当でしょうか。
これについて、先ほどの民法第904条の2第1項は、家業への貢献だけではなく、被相続人の療養看護も、寄与分として評価するとしています。
ただし、被相続人の配偶者や直系血族(子や孫など)、兄弟姉妹は、いずれも被相続人を扶養する義務があるものとされています(民法第752条、同第877条1項)。そのため、「特別の寄与」であることが必要であり、民法で定められる親族間の扶養義務の範囲内の貢献をしただけでは、被相続人の財産の維持や増加について「特別の寄与」をしたとはいえないので、寄与分は認められません。
相続人との身分関係に基づいて通常期待される以上に、貢献をした場合に、寄与分が認められることになります。

なお、寄与分の制度は、共同相続人のなかに、相続財産の維持、増加について特別の寄与をした人がいた場合に、その寄与の程度を考慮して、相続人間の公平を図ることを目的としています。
このような趣旨から、寄与分の主張ができるのは、法定相続人に限られます。

特別寄与料

法定相続人以外の被相続人の親族(相続人の配偶者など)には、寄与分はありません。
そのため、これまで、相続人ではない者は、被相続人を介護したり、被相続人が営む事業を手伝ったりして、被相続人の財産の維持、増加に寄与した場合であっても、その寄与に基づいて、直接に利益を得ることはできませんでした。
この問題を受け、今般相続法の改正がなされ、改正法では、相続人ではない親族が、被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をし、それにより被相続人の財産の維持又は増加に特別の貢献をした場合には、そのような親族を特別寄与者として、その寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)を請求できるものとする新しい制度が設けられました(民法第1050条1項)。
ご質問のように、相続人の配偶者が、被相続人に対し、長年に渡って介護をしてきたような場合がこれにあたります。

寄与分の決定方法

寄与分をどのように算定するかは、まずは、相続人間で協議しますが、協議が整わない、または協議ができない場合には、家庭裁判所が算定します(民法第904条の2第2項)。

寄与分がある場合の相続分の計算については、相続財産からその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなして相続分を算定し、その算定された相続分に寄与分を加えた額をその者の相続分とします。

(相続開始時の財産-寄与分額)×相続割合+寄与分額=具体的相続額

Point

家業を手伝ったり、病気のときに看病したりした結果、遺産がどれだけ増えたのか、あるいは維持できたのか、金銭的に算定することは簡単ではありません。
寄与分や特別寄与料を認めてもらうためには、どれだけ被相続人に貢献していたかがわかる判断材料が必要となります。
相続人とのトラブルを回避するためにも、介護日記や出費のわかる領収書などを残しておくとよいでしょう。
介護による寄与分の争いは、最終的には遺産分割調停や審判に発展することがあります。その場合に備えて、寄与分や特別寄与料の証拠となる資料を集めておくことが大切です。

相続に関する問題は、弁護士にご相談ください

相続の中でも、寄与分の主張は、相続人同士で争いになることが多いです。

  • 寄与分をもらいたいがどうすればよいかわからない。
  • 寄与分について共同相続人間で意見が対立している。
  • 寄与分を主張するための証拠となる資料が手元にない。

相続に関する問題は、弁護士にご相談ください。

記事監修

弁護士 伊藤康典

横浜みなとみらい法律事務所代表弁護士。
東京大学法学部卒業。平成16年度司法試験合格。都内法律事務所勤務を経て、2014年、横浜みなとみらい法律事務所を設立し、所長(2020年現在、弁護士6名)。

個人事業主、中小企業、上場企業の顧問業務のほか、交通事故、相続(遺言、遺産分割、遺留分減殺)や成年後見、建物明渡し等、個人の方からのご依頼にも注力しています。依頼者に待ったをかけるのではなく、依頼者の背中を押す弁護士でありたいと思っています。