相続の豆知識(配偶者居住権・後編)

Q.私には妻と子供がいます。子供は30年前に就職し、家を出ています。それ以降、私は妻と二人で自宅に暮らしています。
私が亡くなった後、妻は住み慣れた自宅に住み続けることはできますか。また、私が亡くなった後、妻が自宅に住み続けるには何をする必要がありますか。

配偶者居住権が認められるためには

被相続人の配偶者(以下、配偶者)は、以下の①及び②を満たす場合に、居住建物(自宅)の全部について、原則として配偶者の終身の間、無償で使用及び収益する権利(配偶者居住権)を取得できます。

  1. 配偶者が、相続開始の時点で、被相続人が単独(又は配偶者と共有)で所有する建物に居住していたこと。
  2. 次のいずれかに該当する場合
    • (ア)遺産分割で配偶者居住権を設定したとき
      例)被相続人の死後、居住建物の所有権は子、配偶者居住権は配偶者とする遺産分割協議が成立した場合。
    • (イ)配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき
      例)被相続人が、「配偶者居住権を配偶者に遺贈する」と書いた遺言を作成していた場合。
    • (ウ)配偶者居住権が死因贈与の目的とされたとき
      例)被相続人と配偶者との間で、被相続人の死後、配偶者に配偶者居住権を与える契約が結ばれていた場合。
    • (エ)家庭裁判所の審判で配偶者居住権を設定したとき

配偶者居住権の登記

自宅の所有権者は、配偶者居住権を取得した配偶者に対し、配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務を負います(民法第1031条1項)。
配偶者は、配偶者居住権の登記をしておけば、もし、自宅の所有権者が第三者に所有権を売却しても、配偶者居住権者は引き続き、終生無償で居住し続けることができます(民法第1031条2項、第605条)。

Point

配偶者居住権については、賃借権と異なり、引渡しを受けている(自宅に住んでいる)だけでは、自宅の買主に配偶者居住権を主張することができません。
配偶者居住権は、不動産の所有権のうち最も重要な、使用・収益の権利を長期間制約する権利です。そのため、配偶者居住権を設定する際には、一定の手続きが必要となることや、不動産の価値に影響が出ることには注意しておく必要があります。

配偶者の負担

配偶者居住権を設定した配偶者は、居住建物を好き勝手に使えるというわけではありません。賃貸物件を借りた場合などと同じで、他人の物として、十分な注意をして、自宅を使用する必要があります(民法第1032条1項)。
また、所有権者の承諾を得ないで、改築・増築をしたり、賃貸等により第三者に使用させたりしてはいけません(民法第1032条3項)。

配偶者は、居住建物の通常の必要費を負担します(民法第1034条1項)。例えば、居住建物に問題が生じたときは、配偶者は、建物を修繕することができます(民法第1033条1項)が、この場合の修繕にかかった修繕費用は、通常の必要費として、配偶者が負担するのが原則になっています。また、「通常の必要費」には、居住建物やその敷地の固定資産税が含まれるとされており、配偶者は、固定資産税を支払う必要があります。

Point

配偶者居住権は、建物を無償で使用・収益できる権利ですが、配偶者居住権を譲渡(売却)することができません。配偶者居住権は、配偶者の生活保障のために特別に認められる権利であるため、配偶者ではない他人がその権利を行使することは、権利の制限を受ける所有者との関係で不公平になるからです。

配偶者居住権の消滅

配偶者居住権は、原則として配偶者が死亡するまで存続します。配偶者が亡くなった場合には、当然に消滅し、相続の対象にはなりません。

相続に関する問題は、弁護士にご相談ください

相続に関する問題は、弁護士にご相談ください。

  • 自分が死亡した後の、配偶者の生活が不安。
  • 配偶者に配偶者居住権を残す内容の遺言を作成したい。
  • 遺産分割協議がまとまらない。

(記事監修・弁護士伊藤康典)

記事監修

弁護士 伊藤康典

横浜みなとみらい法律事務所 代表弁護士(神奈川県弁護士会所属、登録番号 34465)
東京大学法学部卒業。平成 16 年度司法試験合格。都内法律事務所勤務を経て、2014 年、横浜みなとみらい法律事務所を設立し、所長。

事務所開設以来、遺産分割、遺留分侵害額請求をはじめとする、相続事件に注力してきました。法律的な争いがあるケースばかりでなく、遺産が多数であったり、相続人間に感情のもつれがあったりすることで、相続が進んでいないケースも数多く、取扱いがあります。丁寧に事案を解きほぐし、円滑に相続手続が進むよう心がけております。 税務の面について検討が必要な場合には、信頼できる税理士と連携しつつ、対応しています。