相続の実務(遺産の評価-不動産の鑑定-)

Q.父が亡くなりました。母は既に他界しているため、相続人は私(長女)と兄(長男)のみであり、現在、遺産分割調停を行っています。
父の遺産には不動産がありますが、その不動産の価値について争いが生じていて、話が前に進まなくなっています。今後どのように進めればよいでしょうか。

不動産の評価方法

不動産の価値を評価する方法は、当コラム(遺産の評価/不動産の場合)でご紹介しているように、複数の方法があります。いずれの方法で評価するかについて、当事者間で合意が成立すれば、その合意を前提にして調停を進めることができますが、紛争性が高い事案においては、その合意を得ることが難しい場合があります。
また、遺産分割調停においては、不動産会社が作成した価格査定書を証拠として提出することがありますが、双方から異なる価格の価格査定書が提出され、その後も価格査定の応酬になる等、調停手続が混迷化する場合があります。 このような場合、裁判所が選任した不動産鑑定士による「鑑定」が行われることがあります。

鑑定

不動産の価値の評価について争いがあり、当事者間に合意が成立しない場合には、裁判所が選任した、不動産鑑定士が、実勢価格の評価をする鑑定が行われることがあります。鑑定は、不動産鑑定の専門家が、利害関係のない公平な立場で行いますので、鑑定による評価額は、信頼度が最も高いとされています。
鑑定を行う場合は、当事者が鑑定費用の概算額をあらかじめ裁判所に納める必要があり、調停中に行う場合は、法定相続分に基づいて各当事者が負担することが原則とされていますが、遺産の中に現金や預貯金がある場合には、当事者の合意の上で、遺産から鑑定費用を支出する方法もあります。
もっとも、鑑定費用の負担に納得しない当事者がいた場合、鑑定を進めるにあたっては、鑑定をしたい当事者が、いったん鑑定費用の概算額を全額納付する必要があります。この場合は、調停成立時に、鑑定費用の負担割合について合意するか、調停から審判に移行した後は、裁判所が負担割合を定めることになります。
ご質問のケースのように、不動産の価値の評価をめぐって争いが生じ、混迷化している場合には、鑑定を進めて解決を図ることが妥当であると考えられます。ただし、鑑定を行うにあたっては、鑑定費用(数十万円~)を支払う必要があるため、争いとなっている不動産の価値が、鑑定費用を負担するに足る価値を有しているものであるか否かについては、注意が必要です。

弁護士にご相談を

不動産は、特に都市部では価値が高く、その評価額によって取得できる相続分も大きく変わるところですので、遺産の評価について争いが生じている場合には、専門的な知識を有する弁護士にご相談されることをお勧めします。

(文責・横浜みなとみらい法律事務所)