相続の実務(遺産の評価/不動産の場合)
Q.夫が若くして亡くなりました。相続人は、夫の妹と私の2人です。
夫の遺産には、多額の預金のほか,みなとみらいの借地上にあって,私が住んでいる建物があります。私は,今後もこの建物に住み続け,仕事を引退した頃に売却して老後の資金を充実させたいと考えておりますが,夫の妹と遺産分割協議をするにあたり,この建物をどのように相続すればよいでしょうか。
遺産に不動産が含まれる場合
遺産を複数人の相続人で相続するにあたっては,現金,預貯金,株式,不動産,動産など総遺産の経済的価値を算出し,法定相続分や遺産分割協議等で定められた相続分に応じて分割していくことが必要となります。この過程の中では,不公平感が生じないよう,相続対象となる遺産の経済的価値がいくらであるかを把握することも重要です。
本件では、基本的に価格が高く,物理的な分割が難しく,しかも価格の算定が複雑な不動産が遺産にある場合の,①不動産の分割方法と,②不動産の評価方法が問題となります。
不動産の分割方法
一般に,遺産の分割方法としては,下記の4つが挙げられます。
- 現物分割:当該遺産を物理的に分ける方法。土地の場合,土地を分筆して各相続人が取得する。
- 代償分割:当該遺産は一部の相続人のみが取得し,他の相続人は,その代わりに代償金を取得する方法。
- 換価分割:当該遺産を売却し,売却代金を相続人間で分ける方法。
- 共有分割:当該遺産を複数の相続人の共有名義とする方法。
今回のご相談者様の事案の検討を行うと,まず,現物分割について,建物を物理的に分けることは困難ですので,この方法は採れないでしょう。
次に,ご相談者様は引き続きご主人の遺産である建物にしばらく住み続けたい意向を有しておりますので,これらを手放す形となる換価分割も採り得ません。
さらに,共有分割の場合,ご主人の妹様と共有して建物を所有することとなりますが,いざ売却するとなった際,共有者全員の同意が必要となります(民法第251条)ので,お二方の間でトラブルがあった場合には,同意を得られず売却しづらくなることが考えられます。また,持分だけの売却に限れば,ご主人の妹様の同意を得る必要はありませんが,取得しても別の共有者がいる不動産の買い手はなかなかおらず,市場性が落ちてしまうことから,共有持分減価により,売却額はかなり減額してしまうことになるでしょう。
今回の事案では,幸いにも多額の預金も遺産としてあるので,ご相談者様が建物を取得し,ご主人の妹様が代償金を取得する,という代償分割の方法で分割をしていくのが,ご相談者様のご意向に沿った分割方法になると思われます。
不動産の評価方法
経済的価値が一義的に定まる現金や預貯金と異なり,不動産は,いわゆる一物四価(五価)と呼ばれるように,経済的価値の算出方法が多々あります。
一物四価(五価)とは,不動産価格の4つないし5つの算出方法の総称であり,①実際の取引による実勢価格,②国土交通省による公示価格,③市町村による固定資産税評価額,④国税庁による路線価(相続税価格),⑤都道府県による地価調査の価格(地価調査標準価格,基準値標準価格,基準地価等)に分けられます。
不動産の評価額をどのような方式で定めるかは,相続人の話し合いによって合意されるところ,上記算定方式はいずれもある程度客観的で合理的な方法により定められた算定方法であり,実務上も,これらの算定方法のいずれかを採用して不動産の評価額を定めることが多いように思われます。
ご相談者様の事例でも,これらの算定方法のいずれにするか,ご主人の妹様と話し合いをするのが良いと思います。
ただ,今回の事案における建物は,借地上にある建物とのことですので,借地権付の建物として評価される必要はあるでしょう。この場合,評価額の算出方法としては,建物価格に借地権を加えた金額となります。借地権の価格の算出は,国税庁により公表されている財産評価基準書(いわゆる「路線化図・評価倍率表」)を参考にして定めることが多いと思われます。
補足
今回の事案では,ご相談者様が建物を相続する代わりに,ご主人の妹様が代償金を取得する前提としておりますが,例えば建物の評価額が高く,遺産内の預金では代償金を賄いきれない場合もあるかもしれません。
この場合,ご相談者様が,建物の所有権を取得するのではなく,配偶者居住権(民法第1028条)を取得することで,居住し続けることを確保しつつ,代償金を賄い切れない事態を回避する方法も考えられます。配偶者居住権を取得する形で遺産分割を行う場合,この権利の経済的利益の算定も必要になるでしょう。
もっと知りたい
今回は,遺産に不動産が含まれている場合の分割の方法や,その評価方法の一部をご紹介しました。
事例として設定した借地権付の建物のみではなく,借地権の負担付きの土地の場合はどうなるか,マンションに住んでいる場合や借家の場合の評価方法はどうなるかなど,様々なケースが考えられますが,このコラムでは紹介しきれません。
今回のコラムだけでなくもっと知りたい方や,現在お悩みの方,将来はどのようになるのか漠然とした不安を抱えていらっしゃる方も,是非ご相談しに弊所にお越しください。
(文責・横浜みなとみらい法律事務所)