相続の実務(寄与分と遺留分減殺請求の関係)

Q.父が亡くなりました。相続人は、子どもである私・兄・弟・妹の4人です。
父の遺産には、1200万円がありました。もっとも、兄は、生前、父の世話をし、実家の家業と家計を支えてきたとして、遺産の7割(840万円)の寄与分を主張しています。
相続について調べていたら、遺留分というものがあると知り、それは、一定範囲の相続人に最低限確保されている遺産の取得割合であると分かりました。兄の主張は、他の3人の相続人の遺留分(各150万円)を侵害すると思うのですが、そのような主張は認められるのでしょうか。

本件の問題点

遺留分とは、「一定範囲の相続人に最低限確保されている遺産の取得割合」であり、相続における相続人間の著しい不公平を是正するものです。

寄与分とは、共同相続人の一人が、被相続人の遺産の維持・増加に特別な貢献をした場合に、その共同相続人に通常の相続分よりも多くの遺産を承継させる制度で、分かりやすく言えば、被相続人のために頑張った相続人の遺産の取り分を多くする制度です。

そこで、寄与分と遺留分のどちらが優先するのかが問題になります。

実務の考え方

寄与分と遺留分との優先関係を規定した民法上の条文はありません。学説には、寄与分優先説、遺留分優先説、運用説(寄与分を定めるにあたり遺留分は「一切の事情」として考慮されるべきであり、遺留分を侵害する寄与分の定めは運用によって避けるべき)等があります。

この点について、初めて言及した裁判例である東京高裁平成3年12月24日判決(判タ794・215)では、以下のような判断が示されました。

寄与分は遺留分によって当然に制限されるものではないが、ただ、寄与分を定めるにあたり他の相続人の遺留分についても考慮すべきとし、家業である農業を続け、遺産たる農地等の維持管理に努めたり、被相続人の療養看護にあたったりしたというだけで、寄与分を大きく(7割)と評価するのは相当ではなく、さらに特別の寄与をした等特段の事情がなければならない。

上記裁判例の判断からすれば、実務上は運用説が支配的であると考えられます。

回答

質問に対する回答をする前提として、兄の寄与分を優先した場合と遺留分を比べてみます。

1 兄の寄与分を優先した場合、遺産分割をすると、
私・弟・妹は、(1200万円-840万円)× 1/4 = 90万円
兄は、90万円 + 840万円 = 930万円

2 私・弟・妹の遺留分は、各150万円です。

回答ですが、まず、上記のとおり、兄の主張する寄与分を認めると、遺留分すら確保できない状態となりますが、共同相続人間でそのように決めることもできます。

他方で、実務上支配的と考えられる運用説によれば、他の相続人の遺留分を侵害するほどの寄与分割合の主張は、認められにくいといえるでしょう。

なお、運用説によっても、「さらに特別の寄与をした等特段の事情」の存在によって、遺留分を侵害する寄与分を認める余地は残っています。過去の裁判例では、相続人が相続財産の購入資金の大半を提供したり、被相続人の生活費等をほとんど負担したというような事案においては高い割合の寄与分が認められているので、このような事情が存在する場合には、「特段の事情」が認められる可能性が考えられます。

もっとも、このような例外的な事情についての主張立証のハードルは高いものになると思われます。

弁護士にご相談を

今回のコラムでは、寄与分と遺留分減殺請求の関係から、その優先関係が問題になりました。

寄与分の主張は、ただ単に主張すれば認められるものではありません。単に被相続人のために貢献したというだけではなく、財産の維持又は増加のために「特別の寄与(親族の通常期待されている程度を超える寄与)」をしたことが必要で、主張立証に困難な場面があります。

また寄与分だけでなく、遺留分についての法律上の扱いも複雑なので、専門的な知識を有する弁護士にご相談いただければと思います。

(文責・横浜みなとみらい法律事務所)

記事監修

弁護士 伊藤康典

横浜みなとみらい法律事務所 代表弁護士(神奈川県弁護士会所属、登録番号 34465)
東京大学法学部卒業。平成 16 年度司法試験合格。都内法律事務所勤務を経て、2014 年、横浜みなとみらい法律事務所を設立し、所長。

事務所開設以来、遺産分割、遺留分侵害額請求をはじめとする、相続事件に注力してきました。法律的な争いがあるケースばかりでなく、遺産が多数であったり、相続人間に感情のもつれがあったりすることで、相続が進んでいないケースも数多く、取扱いがあります。丁寧に事案を解きほぐし、円滑に相続手続が進むよう心がけております。 税務の面について検討が必要な場合には、信頼できる税理士と連携しつつ、対応しています。